ジュエルと靴クリーム

舶来品を⽬標にした時代(1923〜)

当社が初めて作った靴クリームの処⽅はドイツ⼈から譲り受けたと伝えられていますが、残念ながらオリジナルは現存せず、どのようなものであったのかは今では分からなくなっています。
当初、靴クリームの製造にはかなりの苦労があり、原料の選定や調達、実際の製造⼿順に関して多くの試⾏錯誤の結果、国産の靴クリームが誕⽣しました。
しかし欧州では当たり前に⼿に⼊る原料も、当時の⽇本には存在すらしないということが多々あり、国産品が欧州から輸⼊されるクリームと品質で肩を並べることは困難でした。したがって1923年の創業から当社の技術陣の⽬標は「欧州のクリームに引けを取らないものを造る」ことにありました。そうした研究の中で昭和30年には「W/O型の液体クリーム」製造技術の独⾃開発に成功しています。
何⼗年の研究の結果、戦後、⽇本で種々の原料が⼿に⼊るようになると当社の品質も⾶躍的に向上し、やがて舶来品に負けないと胸を張れる製品ができるようになりました。むしろそれ以降は、⾚道を超えて⻑時間船に揺られてくる輸⼊品よりも安定した品質の国産品ができるようになったといえます。私たちは、約半世紀をかけて「舶来品と肩を並べる」という⽬標を達成しました。

今でも当時の古い研究ノートが何冊か現存しています。ノートは⽇々の実験結果でびっしりと埋まり、往時の先⼈の努⼒が伝わってきます。

⽇本の気候に合った製品を⽬指す(1970〜)

しかしある出来事が、その後の私たちの製品設計に⼤きな変化を要求しました。ある⽇、私どもに寄せられたお客様からの⼀件の苦情…
それは「⿊い靴クリームを塗って⾬の⽇に出かけたら、ズボンの裾が真っ⿊に汚れてしまった」という内容のものでした。靴クリームは、本来は混ざることのない⽔・油・蝋を混ぜて造ります。しかし単に混ぜただけではすぐに分離してしまいますから、安定した状態を保つために「乳化剤」の⼒を借りて乳化し「クリーム」にするわけです。ところがこの乳化剤は、⼿⼊れ後に⾰の表⾯に残ります。そのため乳化剤を多く含んだクリームは乳化が簡単で製造が容易ですが、⼿⼊れ後に⽔が近づくとその⽔を呼び込んでしまうのです。
つまり本来は⽔をはじく蝋でツヤを出している靴クリームなのに、塗った後、むしろ⽔に弱くなってしまうという⽪⾁な現象が起きてしまうのです。乳化剤を減らせばクリームの耐⽔性は上がりますが、クリームは分離しやすく不安定になり、同時に製造も難しくなります。
靴の本場である欧州に⽐べてはるかに⾬の多い⽇本の気候は、⾰靴にとって苛酷です。美しい⾰の⾵合いを保ち美しいツヤを出すだけでなく、⾰を⾬からも保護する……そんな⽇本の気候⾵⼟に合った理想の処⽅を求めて私たちの研究が始まりました。

品川油化研究所から商標と製造技術を継承(1992〜1993)

⽇本の気候⾵⼟に合った処⽅を⽬指していた時期に⼀つの出来事がありました。それは品川油化研究所のの製造技術とその商標「VIOLA(ヴィオラ)」の継承です。
品川油化研究所は戦後創業の新進メーカーでしたが、創業時から品質に定評があり、その技術⼒の⾼さは業界では伝説的な存在でした。縁あって、その事業の後継者としてジュエルが選ばれたことは⼤変名誉なことでした。そして引き継いだレシピの中には、多くの斬新な技術が盛り込まれていました。品川油化から引き継いだ処⽅と、これまで蓄積してきた知⾒を融合させることで、私たちは「⽇本の気候に合った製品」という課題に⼀つの答えを⾒つけました。
そして独⾃の処⽅で製造を開始したのが「ヴィオラ シュークリーム」です。「ヴィオラ シュークリーム」は、乳化性で⾼輝度のクリームでありながら⾼い耐⽔性を兼ね備えるという、それまでの常識を覆した製品です。

多様なお客様のニーズへの対応(1980〜)

また私たちは⽇常よく履かれる通勤靴などの⼿⼊れにも着⽬しました。⾼級レザー靴とは異なる仕上げが施されている⽇常よく履かれるビジネスシューズは、その性格に合ったケア⽅法があるはずです。私たちは様々な靴に使われる⾰素材を研究し、それぞれに適したケア⽅法を提案することにしました。
こうして登場したのがビジネスシューズなど⽇常使う靴⽤に開発された「BRIN(ブリン)」シリーズです。シリーズの主⼒アイテム「ブリン ツヤ出しクレンジングスプレー」は発泡タイプのスプレーを使⽤することで、僅か2分⾜らずで「靴の汚れを落とし、コンディションを整え、ツヤを出す」という他に類のない画期的な製品です。

また主に婦⼈靴やバッグなどに使⽤されるデリケートな⾰⽤に「Jewel Arcot(ジュエル アルコット)」を提案しています。旗艦アイテムの「ジュエル アルコット レザーモイスチュア」は乾燥した⾰をしっとりと蘇らせ、ベタつかず適度に補⾊もするというスグレモノです。


さらにワークブーツなどヘビーデューティーシューズ、趣味で履く⾼級スニーカーなど、多様なプライベートシーンで使われる靴に合わせた「JEWEL Ikebukuro Tokyo(ジュエル イケブクロ トーキョー)」シリーズでは「ミンクオイル」や「ブーツクリーム」、「スニーカークリーナー」や「クツセッケン」といった特定の⽤途にピンポイントに対応した幅広い品揃えがされています。


時代とともに⽇本の靴に関わる⽂化は⼤きく変化・多様化しました。ジュエルもその時代時代の変化に対応し、研究と研鑽を積みながらお客様のニーズに沿った独⾃の製品を製造し続けています。